不正競争防止法

不正競争防止法は事業者間の公正な競争及びこれに関する国際約束の的確な実施を確保するため、不正競争の防止及び不正競争に係る損害賠償に関する措置等を講じ、もって国民経済の健全な発展に寄与することを目的とした法律です。(不正競争防止法1条)

従来我が国においては、製品を自社で全て開発する事業が成立していましたが、昨今の製造業では企業間の情報ネットワーク化が進むことにより製造技術情報が交換され、また技術等の情報が国境を越えて拡散される時代となり、加えてコスト競争力がある途上国企業の市場参入が容易になりました。

このような状況の中、製品の技術の全てを自己で有する必要性が薄れていく状況になりつつあります。

この結果、事業戦略として他社に委ねる領域と自社が受け持つ領域を以って市場を拡大し、競争力の確保を実現させるオープン&クローズ戦略が採られるようになりました。

オープン&クローズ戦略により情報が持つ価値も見直され、営業秘密として管理する情報と拡散しても良い情報とに棲み分けがなされることになり本法の持つ意義も高まっています。

次に不正競争防止法に於いては特許法、意匠法、商標法等の工業所有権法とは異なり出願し権利としなくとも、公正な競争に反する行為に該当する場合については損害賠償請求や差止請求ができます。

しかし出願し審査を得て権利化されたものとは異なり、紛争ともなれば厳しい所定の要件を満たさなければならず、不公正な行為がなされたとしても必ずしも保護救済がなされるとは限らないことに注意が必要です。

例えば、商標法に於ける商標権は独占権であるので他人が使用することは許されず、他人が当該商標を使用すれば差止請求等をできますが、本法では周知・著名の域まで価値を高めた場合にのみ保護を受けることができます。

また、商標法等の工業所有権においては過失の推定規定(特許法103条等)があり、損害賠償を請求する場合には相手に過失が無かったことの立証責任がありますが、本法にはその規定がなく自ら立証責任を負うことになります。

従いまして、権利化できるものであって権利化が必要なものは権利化し、秘匿すべきノウハウや権利化できないものについては本法により保護を得るのが賢明であると思います。

不正競争防止法によって保護される行為

不正競争防止法2条1項には以下の行為について不正競争行為として規定されており、該当する場合にはその行為者に基本的に損害賠償請求、差止請求ができます。

混同惹起行為(1号)

需要者の間に広く認識されている他人の商品等表示と同一または類似の商品等表示を使用し、他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為

著名表示冒用行為(2号)

他人の著名な商品等表示と同一または類似のものを自己の商品等表示として使用する行為。

他人の商品の形態を模倣した商品を譲渡等する行為 (3号)

他人の商品の形態を模倣した商品を譲渡、貸し渡し、譲渡又は貸し渡しのために展示、輸出、輸入する行為。

営業秘密に係る不正行為(4号乃至10号)

窃取等の不正な手段により、営業秘密の保有者から営業秘密を取得する等の行為。

技術的制限手段に対する不正行為(11号及び12号)

デジタルコンテンツのコピー管理技術やアクセス管理技術を無効にすることを目的とする機器やプログラムを提供する行為

ドメイン名に係る不正行為(13号)

不正の利益を得る目的または他人に損害を加える目的で、他人の特定商品等表示と同一または類似のドメイン名を使用する権利を取得・保有し、又はそのドメイン名を使用する行為

誤認惹起行為(14号)

商品・役務(サービス)やその広告・取引用の書類・通信に、その商品の原産地・品質・内容・製造方法・用途・数量や、役務の質・内容・用途・数量について誤認させるような表示を使用したり、その表示をして役務を提供する行為

信用毀損行為(15号)

競争関係にある他人の営業上の信用を害するような虚偽の事実を他人に告げたり流布したりする行為


代理人等の商標冒用行為(16号)

外国における商標について、当該商標の商標権者の承諾無しに、その代理人等がその商標と同一又は類似する商標を同一又は類似の商品又は役務に使用等の行為。

 

営業秘密

本法に於ける営業秘密に該当し得るには、秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないものであることが必要です(不正競争防止法2条6項)。

つまり、当該情報に秘密管理性、有用性及び非公知性の3つの性質があることが求められます。

本法の営業秘密に該当すれば、当該情報の意図しない拡散行為について差止請求、損害賠償請求ができ、当該情報を拡散する者に刑事罰を与えることも可能となり抑止効果も期待できます。